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2023/2/3

不思議で、魅力的な雑貨屋さん/THE APARTMENT STORE(アパートメントストア)

 アンティークの雑貨や家具、輸入物の古着や新品の洋服。様々なアイテムが入り混じる、まるでアニメの世界に迷い込んだような不思議な空間。「THE APARTMENT STORE」(以下アパートメントストア)は独自のコンセプトと表現で多くの人々を惹きつけている。

 今回、お話を伺ったのはアパートメントストアを運営する株式会社スタジオトラス代表取締役の原さん。かつては教師を目指して教育大学に通っていたという原さん。ご自身の経歴やアパートメントストアの成り立ち、そしてトヨトミとの関係など、様々なお話をお聞きしました。

すべてを一度
マテリアルとして
捉える

ーお店のコンセプトをお伺いできますか?

原さん:すこしややこしいのですが、このビル全体がアパートメントストアという名称になっています。建物全体をアパートに見立てて、アパートメントストアという全体のコンセプトの中でそれぞれの階層やエリアにそれぞれの目的を持った場所があるというイメージです。

ーなるほど。1階と2階は全く別のコンセプトのお店なんですね。

1階は「アパートメントストア」として国内外の新品の洋服を販売していて、カフェがあったり、奥の工場でつくった古材を使用した家具のショールームにもなっています。2階は「STORE IN FACTORY」(以下ストアインファクトリー)という名称で古いヴィンテージの家具や雑貨を販売しています。2階のイメージは「古いものばかりのホームセンター」。ホームセンターがもともと好きなんですけど、ああいう場所にあるのが全部古いものだったら面白いなっていうのが始まりですね。

ー工場も併設されている。

原さん:そうですね。たとえば古いアンティークのドアを仕入れたときに、普通のアンティークショップだと、ただそのまま売るっていうだけだと思います。僕らの場合は買ってきたら、いったん材料として保管します。そして工場で加工してショップカウンターの一部として使用したりする。古いものをただそのまま販売するというだけではなく、全部一度マテリアル(素材)として捉えてみるという考え方をしています。

ワークウェアで
ありながらも
かっこいい服

ーいつOPENされたんですか?

原さん:アパートメントストアについてはもともと2015年に栄3丁目のビルの3Fに出したのが最初です。ストアインファクトリーはもう少し歴史が古くて2010年に現在のささしまライブ駅付近に出したお店が最初ですね。現在の場所に移転したのが2019年です。

ーアイテムをセレクトするポイントはどんなところなんでしょう?

原さん:新品の服に関しては単純に自分が着たいものを選ぶようにしています。僕自身、1日の仕事の幅がすごく広くて、接客することもあるし、モノを作るので工場で作業したりすることもあるし、打ち合わせもあるし、古物の掃除もする。基本的になんでもやるので、そうすると全部をこなせるような服がいいなって思うんですね。なので、ワークウェアでありながらもかっこいいっていう服を主にセレクトしています。

ーたしかにスーツや作業服だとはまらないような仕事のスタイルが増えてきている気がします。

原さん:今はホワイトワーカーとブルーワーカーではっきり区別するような時代ではなくなってきていて、その間で生きている人がたくさんいると思っています。だからそういう生活、そういうスタイルに合った服が必要になってきている。プレタポルテ(高級な既製服)ではなく、仕事着として安くて使い捨てにしてしまうようなものでもなく、そつなくどこでも着られるシンプルな服でもない。そんなときにハマる服っていうのが自分が今ピンとくるものですかね。

カテゴライズドされないのが
自分たちの売り

ーアンティーク品のセレクトはいかがでしょうか?

原さん:古物に関してはそのとき面白いなと思うものを買ってるような感じです。流動的でカテゴライズドされないのが自分たちの売りだと思いますね。バイイングのテーマがはっきりしすぎるとバイヤーが飽きてくるんですね。バイヤーが飽きているお店って面白くないんですよ。つまり僕がわくわくしてたほうがお客さんにとっても絶対面白い。だから買うアイテムのテーマは決めずにその都度考えています。前回買ったけど今回はいらないってことも当然ある。

ーただ流動的なスタイルだと買いつけは大変そうです。

原さん:うちはアメリカに買いつけに行くことが多いんですが、お店によっては現地にホールセラーというアンティークを集めてくれるディーラーがいるんですよ。ただそういうやり方はテイストが定まっているお店だから成り立つんですね。たとえば毎回似たテイストのものを買うお店だったら、そのディーラーもとりあえずそういったものを買っておけばいい。そうすると一定量はその人たちで集めておいてもらって、あとは渡米後に残りを買えば仕事が成立する。でも僕らは都度買うものが変わるのでディーラーとの付き合いができない。毎回ゼロからのスタートになるのでそこはめちゃくちゃ大変ですね。

ープレッシャーもありますよね。

原さん:そうですね。年に2回買いつけを行っているんですけど、言ってみたら1回の買いつけで働いてもらっている人たちの半年分の人生がかかっている。だから本当はちょっとでも確保しておきたいというのが正直なところです。

ー自分たちで買いつけを行うメリットはどこにあるんでしょう?

原さん:まず100%自分たちで仕入れるので中間マージンがとられない。メーカーでいうと直営店みたいな考えができます。それと普通は不良在庫になるようなものがお店を演出してくれる。たぶん一般的にはそんな余裕持ってないお店ばっかりだと思います。十何年とこういった買いつけを繰り返してきたのでその蓄積って半端じゃないんです。だからそういったものが僕らのブランディングをしてくれて面白さにもつながっていると思いますね。

自分の好きな“買う場所”を、
そのまま“売る場所”として
提供したい

ーお店の空間を作る上でどういったコンセプトがあったんでしょうか?

原さん:当時の背景からお話すると、ストアインファクトリーを立ち上げた2010年頃のアンティーク屋さんや古着屋さんはそれ以前のお店に比べてソリッドになってきていました。まるでギャラリーの展示物のように古物や古着を販売するようなお店が増えていたんですね。

ー綺麗なんだけどちょっと無機質なタイプのお店ですよね。

原さん:もちろんそういうお店もあっていいと思うんですけど、僕はもともと蚤の市みたいなごちゃごちゃした場所が大好きなんです。でもそういうギャラリーみたいなお店をやってる人たちも実は蚤の市が大好き。つまり、ごちゃごちゃしたところで仕入れをして、ソリッドなところで高く売るのが好きになっていってるということなんですね。でもそれって自分の好きな“買う場所”と、自分の作りたい“売る場所”が乖離してしまっているんですよ。僕は自分の好きな“買う場所”を、そのまま“売る場所”として提供したいと思っています。

ー蚤の市の面白さはどんなところでしょう?

原さん:いい意味ですごくムラがありますね。揺らぎがある。プライスレンジって一定になってくると面白くない。たとえば、ある店で1個1個商品を見ていくと、しっかり値付けがされているから、全ての商品が「ちょっとだけ」高くて結局買うものがないっていうことになる。

ーたしかにそうですね。掘り出し物を探す楽しみがない。

原さん:蚤の市は違いますよね。相場より高かったり安かったり、相場通りだったり、価格に揺らぎがある。だからうちの店も「蚤の市的」にプライスレンジは操作していて、ある意味多重人格的なアイディアで価格を決めています。まあ、シンプルにいい加減だからっていうのもあるんだけど(笑)。ただそのいい加減さを利用して、僕が思ういいお店を作る方法論として落としこんでいる感じですね。

ー僕も蚤の市的なお店の方が好きです。

原さん:人それぞれだとは思うんです。おしゃれなところで緊張感をもって買いたいという人もいますし。僕は同じ愛知県のヴィレッジバンガードみたいな考え方も好きなのでこういうスタイルでやっています。再現性が難しいから継続するのは大変なんだけど、でもすごく大事な部分です。

トヨトミストアでの体験が
現在に繋がっている

ーここからはトヨトミについてもお聞きしていきたいです。トヨトミにどんな印象を持っていますか?

原さん:実はトヨトミさんとはちょっとしたご縁が合って。2008年のことなので、もう十年以上前になるんですけど、結婚したばかりの頃に本当にお金がなくて、家もめちゃくちゃ寒かったんですね。それで暖房機を探していたときに、ストーブを直してリファブリッシュ品を売ってるお店があるって聞いたんですよね。で、行ってみたんですけど、そのとき対応していただいた方がもともと職人の方で、本当に詳しく教えていただいた。

ー現在のトヨトミストア(※)ですね。

原さん:その頃から今やってるアパートメントストアの構想があったんですけど、そのときの体験が現在に繋がった部分はあると思います。見方によっては不要なんだけど、ある人にとっては価値があるモノってきっとあって、僕らもそういったモノを大切にしています。そういう取り組みを言い方は良くないですけど、「妙なセクション」を作って大手のメーカーがあえてやってるっていうのに感動して。だってそういうのって別にやらなくてもいいことじゃないですか。当時は今みたいにどこもかしこもSDGsを掲げてやってるっていう感じじゃなかったですし。


※トヨトミストアについてはこちら
https://www.toyotomi.jp/toyotomeets/magazine/39385


ーたしかにメーカーが運営するお店のスタイルとしては珍しいかもしれません。

原さん:その頃はアパレルの世界にいたんですけど、その当時に学んだ接客方法に疑問を感じ始めていたんですね。そんなときにトヨトミストアで接客してくれた人は、たぶんずっと開発とか技術とかしてたような職人さんで、おそらく部署的にもキャリア的にも売れても売れなくてもどっちでもいいみたいな感じだったと思います。ただ純粋に会社に恩があって、会社もその人のことをまだ必要だと思っていて、で、壊れてるけど直せば使えるっていう商品がある。そんなマッチングの中で買うまでのフローがすごく気持ちよかったんですよね。全然ストレスなくて、たぶん接客してくれた人にもなくて。「あ、でもこういうもんだよなあ」って思ったんですよね。「これでいいじゃん」って。

ー現在のアパートメントストアの接客にも生かされている部分はありますか?

原さん:うちは「暇だったら接客しよう」っていう形にしています。それは接客をさぼろうということではなくて、作業している姿が接客になるべきだっていう考えなんですね。こういうお店なら、商品を掃除している姿だったり品出しをしている姿だったり。古いものに対して誠実に向き合っている姿が一番の接客だと思っています。その部分はトヨトミストアも似ているんじゃないでしょうか。あとはお客さんが必要だと思っている情報をこちらで補っていくような接客は必要と考えています。必要とされれば120%で答えられるような接客を心がけていますね。

ー撮影スタッフが別の日にお伺いしたときに、これだけのアイテム数があるのに、ほんの小さなアイテムのことを詳しく親切に説明してもらって驚いたと話していました。

原さん:それはよかったです。「お客さんが来たらとにかく声をかけて」っていうスタイルを強いていたらそういった接客は生まれていないと思いますね。みんなここにあるものが好きなので、売るためだけじゃなく好きなものを共有したいという思いが伝わったんじゃないかなと思います。

ーちなみにトヨトミストアは2022年に大幅リニューアルしました。

原さん:そうなんですね。あの内装の雰囲気もなくなって、以前よりちゃんとしちゃったんですね(笑)。今はああいうコンセプトのお店も増えてきているので、今、出会ってもあのときの感動はないかもしれません。ただ僕は世の中がSDGsを掲げる前からトヨトミさんがあの事業をやっていたということを知ってるので。そのうちまたお邪魔させていただきますね。

『トヨトミすごいな』
と思った

 1階のカフェスペースにあったのはクラシックモデルのCL-25タイプ。5年以上に渡り、お店とともに年月を重ねてきた新品のストーブにはない独特の風合い。アパートメントストアのCL-25タイプはストーブを使いながら育てていくことの価値を示してくれている。

ーストーブの印象についてお聞かせください。

原さん:カフェスペースで使ってるんですけど、いまだにお客さんから声かけられますね。最近だとアウトドアギアが人気なのでそういう方面の需要も多いと思うんですけど、これに関してはそういったものでもないのでシンプルに珍しくてお店の雰囲気にも合ってるんでしょうね。

ークラシックモデルは1980年代初頭に生まれたレインボーストーブの機能を継承しながら独自デザインに進化したストーブです。

原さん:そう聞きました。会社のアイデンティティとして古いものを評価するって本当は当たり前のことだと思うんですけど、そう言われながらも自動車メーカーは過去の名作をつくらない。だから本来はできないハードルみたいなものがきっとあるはずだと思うんです。それをやっているっていうのがトヨトミすごいなって思いました。

若い人たちに
伝えていきたい

ーこれからの展望をお聞かせいただけますか?

原さん:僕はもともと教育大学に通っていたんです。教育に対しての考えみたいなものは誰よりもはっきり持ってたと思いますし、誰よりも真剣だったと思います。でもそういう人のための大学じゃないって思ったときに、大学をやめて全く違う世界に飛び込みました。後悔はありませんが、何か忘れものがあるような気がしていた。たぶん重要なのは「誰に伝えるか」ということなんだと思います。僕はこのアパートメントストアを通して、従業員や栄に集まる自分らしさを大事にしている若い人たちにこの事業で培ってきたものを伝えていきたいと思っています。

ー教員ではなくても何かを教えていくことはできる。

原さん:そうですね。教壇には立てなかったけど、教育って学校だけがするものではなくて、社会・教育現場・家庭と3つの場所でやるべきだと思っています。だから、そういう場所をどういうふうに作っていくかが重要だと考えている。教育者になるのは夢でしたけど、今は会社の代表として『社会』で、2人の子供の父親として『家庭』で、3分の2は教育に関わることができているのかなと思っていますね(笑)。


取材を終えて

 長時間のインタビューになりましたが、溢れ出るエナジーから生まれる興味深い話に時間を忘れて聞き入ってしまいました。原さんはジブリ作品が大好きとのことで、ディテールを積み重ねてできる空間が好きになったのはジブリ作品の影響が大きいそうです。

 ちなみに原さんが好きな音楽はボブ・マーリー。一番苦しいときは「No Woman, No Cry」という曲を聴いて元気を出しているとのことでした!

 また、今年の春にはストアインファクトリーの原点ともいえるささしまライブ駅近くに店舗を再OPENする予定とのこと。日本の古いモノをリユースした国内のいいものにフォーカスしていく事業にも取り組んでいくそう。さらなる進化が楽しみです。


ご紹介したストーブ

CL-250 インクブルー
クラシックモデル。格子柄のガードがついたレトロなデザインの対流形ストーブ。
※現在は販売終了


ご紹介した店舗

THE APARTMENT STORE
住所:〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄5丁目23−9
営業時間:11:00~19:00
(営業時間について詳しくは公式WEBサイト・公式SNSをご確認ください)
公式WEBサイト:https://www.the-apartment-store.jp/
オンラインショップ:https://the-department-store.net/
Instagram:https://www.instagram.com/theapartmentstore.jp/


※本記事に掲載の情報は2023年2月時点のものです。
※店舗で撮影したモデルは現在販売しているモデルと外観が一部異なることがあります。


photo / yamamoto
interview / oshima
text / gambe


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