新しいトヨトミに
出会えるWEBマガジン

2024/4/13

アートと音楽と食文化が混じり合う、ここ以外どこにもない場所/高山額縁店・納屋橋 TWILO(トワイロ)

 名古屋の中心地を南北に貫く堀川は名古屋城築城に合わせて、賤ケ岳の七本槍として知られる福島正則によって1610年に開削されたと言われている。その堀川を東西に結ぶ橋が納屋橋である。名古屋有数の繁華街である名駅と栄をつなぐ納屋橋は、2023年に複合施設『COLORS.366』がオープンするなど近年注目を集めているエリアだ。

 そんな納屋橋にあるのが昭和21年創業の高山額縁店。額縁販売の老舗である高山額縁店は数年前に大規模な改装をおこない、ギャラリーやバーを併設し、アート・音楽・食など様々な文化にまたがる発信地として、その存在感を高めている。今回はそんな高山額縁店の代表である高山さんにお話を伺った。

世界中どこを探しても
ないようなお店をつくる

「高山額縁店は昭和21年に創業しました。戦後のバラックのような建物を間借りして商売をしたのが最初の始まりです」

 当時は戦後間もない時代。戦争で亡くなった方の写真を飾るために額縁は飛ぶように売れた。また絵画を飾ることがステータスとなった高度経済成長期にも額縁の売買は盛んとなり事業は拡大していった。ただライフスタイルの変遷から徐々に額縁の需要は減っていき、業績は悪化の一途を辿っていたのだという。そんなときに創業者である祖父が亡くなった。

「あまりに突然だったんですね。何も準備もできていなくて。業績も非常に悪かったので、もうお店を畳もうかとも思ったんです」

 憔悴する高山さんを救ったのは祖母の『もう一度あなたの力で高山額縁店を盛り上げてほしい』という言葉だった。『今までの高山額縁店ではなくあなたが思うような額縁店を作りなさい』と祖母は高山さんの背中を押した。

「それで開き直れたんです。もうここまで落ちぶれたなら失うものはない。僕が理想としている世界中どこを探してもないようなお店を作ろうって」

 そこで高山さんは大規模な改装をおこなった。埃を被って倉庫の肥やしになってしまっていた在庫は処分し、売り場部分のレイアウトを一新。また基本的には店舗に在庫を置かず、オーダーメイドの額縁だけを販売することにした。内装やコンセプトの変化に馴染みのお客様からは『伝統を壊そうとしている』とお叱りを受けることもあったのだという。そんなとき高山さんはどのように答えていたのだろう。

「返す言葉もないですよね。全くその通りだったので言われても仕方ないと思っていました。でも自分の中でこういうお店を作りたいというはっきりとしたコンセプトがあったので、これでダメなら諦めるしかないと思っていた。だから考えはブレなかったですね」

 改装して4年目くらいから少しずつ来店客が増えてきた。改装前はいかにも家族経営の額縁店という牧歌的なお店だったが、現在は働くスタッフも美大の卒業生などアートをずっと勉強してきた人が多い。そういった若いスタッフの意見を積極的に取り入れてスキルを活かしてもらっている。

「そのおかげもあってか最近は若い世代のお客様がすごく増えました。僕たちは額縁を絵や写真を入れるためだけのものではなく、インテリアとして考えてもらいたいと思っています。例えば鏡や天井のエアコンなど、ちょっとだけ無機質に見えるものでも、装飾品として額縁を組み合わせると、すごく素敵な空間になったりする。今は中古のマンションをリノベーションして自分好みの空間にする方とか、定型的な価値観ではなくそれぞれのライフスタイルに合った生き方を模索する方が増えていますよね。そういった30代から40代の若い方に向けても、うちの額縁を提案していきたいなと思っています」

生のカブトビールが味わえる
レストランバー『TWILO(トワイロ)』

 併設する納屋橋TWILO(トワイロ)は倉庫を改装してつくられたレストランバー。どこか懐かしい雰囲気を漂わせながらも、DJブースや古書、レコード、そして天井や壁面に飾られた額縁がインテリアとして存在感を発揮していて、まさにここにしかない空間を作り出している。

「トワイロというのは、もともとニューヨークにあった伝説のクラブなんです。その響きがとても好きで自分のお店を持ったらその名前を使いたいと以前から思っていました。そしてもう一つの意味が『永遠の色』。額縁に収まる絵画というのは一過性のものではなく、どの時代にも通じる普遍的な文化だと僕たちは信じています。そうした絵画への思いも込めてトワイロと名付けました」

 トワイロの特徴は名古屋で唯一、生のカブトビールが飲めるバーであること。カブトビールは明治時代から昭和初期にかけて人気のビールだったが、第二次大戦のさなかに製造工場が軍需工場として使われることとなり生産が終了。そうした悲劇的な経緯もあって現在では『幻のビール』とも呼ばれるビールだ。高山さんとカブトビールとの出会いはどういったきっかけだったのだろう。

「納屋橋の歴史の勉強会に参加したとき、当時の古地図の中に『カブトビール名古屋支店』というのが載っているのを見つけたんです。そのときはカブトビールの存在を知らなかったんですが、当時はこのあたりで一番人気のビールだったと」

 かつてお金や色がうごめく活気のある歓楽街だった納屋橋。そこにあった戦前は東海地方で隆盛を誇ったカブトビールの支店。それぞれの現在の姿に接点を感じたのだという。

「同じじゃんと思ったんですね。だからこそカブトビールをここ納屋橋で復活させたいと思った。そこで復刻の立役者の方に連絡をとって。はじめはあっさり断られたんです。でも何度もお電話をして、長い手紙をお送りして。最終的には思いが伝わったのか、ここトワイロで生のカブトビールを提供させていただくことになりました。条件は二つ。『カブトビール以外のビールは取り扱わない』こと。そして『カブトビール名古屋支店という名前を入れる』こと。もともとそういうつもりだったので、二つ返事で快諾しました」

 今回はせっかくなので筆者も人生初のカブトビールをいただいてみた。スッキリした飲み口だが、しっかり苦みとコクがある。飲んだことがないはずなのに、どこか懐かしいと感じさせる不思議な味だ。

「ぜひストーリーまで含めて味わってほしいですね。廃業を余儀なくされた幻のビールが100年の時を経て復活して、納屋橋というレトロな街の特別な空間で味わえる。今では高山額縁店にとってもカブトビールは切り離すことのできない存在になったと思います」

好きだった音楽が
仕事の中でリンクした

 高山額縁店の二階は『納屋橋Komore』という、ワークショップや個展などを開催できる多目的スペースとなっている。こちらも2017年に改装をおこなったが、改装後に印象的な出来事があったのだという。

「ギャラリーを運営している知り合いの方から『鋤田正義(すきたまさよし)さんという方の展覧会の会場を探している』と問い合わせがあったんですね」

 鋤田正義さんはデヴィッド・ボウイの専属のカメラマン(※)で『スキタに写真を撮ってほしいから』とわざわざ来日することもあるほど、デヴィッド・ボウイとの親交が深いフォトグラファーだった。

※YMOの名盤『SOLID STATE SURVIVOR』のジャケット撮影やジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』のスチル写真を担当するなど活躍は多岐に渡る。

「その鋤田さんが展覧会を名古屋でやるということになって、うちに声がかかった。僕はもともと音楽が好きでこの仕事を継ぐ前は夜の世界でDJをやっていたんですね。でも家業を継ぐためにいったんはそこを退いて、額縁店にフォーカスしたという経緯があった。自分が諦めきれなかった音楽が初めて家業の中でリンクしたんです。ましてや自分が大好きだったデヴィッド・ボウイという偉大なミュージシャンにフォーカスを当てた展覧会。嬉しかったですね」

 展覧会は通常ホワイトキューブと呼ばれる白い空間で開催されることが多い。温かみのある空間でオリジナルの額縁に入れられた写真は来場者からもかなりの高評価を得たのだという。

「『こんな素敵な空間で開催してくれてありがとう』と口を揃えて言っていただいて。みんなで信じてやってきたことが間違いじゃなかったんだと思えた瞬間でしたね」

 それがきっかけになったのか、その後も名古屋出身のロックミュージシャンでBLANKEY JET CITYでの活動で知られる浅井健一さんの絵画展もおこなった。浅井さん本人も2日間在廊し、多くの来場者を集めた。

「仕事って基本的には『やらなきゃいけないこと』がほとんどだと思うんですね。でもひとつひとつそういったことを丁寧にやってきたからこそ、貴重なご縁をいただける機会が巡ってくる。こういった展覧会にいらっしゃる方は額縁には興味がない方も多いと思う。でも、そういう方に『額縁っていいな』と思ってもらえるような場所を提供できた。諦めなくてよかったと思った瞬間でした」

ストーブが呼び起こす
何気ない日常の記憶

 トワイロではKS-67Hのブラックが高い暖房能力で空間を暖めている。

「うちはテラス席が人気で寒い日も利用される方が多かったんです。火を使うということで少しためらいもあったんですが、やはり日本、名古屋のメーカーで安全装置もしっかりしているということで導入しました」

 2年ほど前に1台を導入し、お客様からの評判もよかったため、2台目を導入したのだという。

「昔、ここが木造家屋だった時代に工房でトヨトミさんのストーブを使っていたんですね。木の粉が飛ぶ中で、パチパチと音を立てながら燃えているストーブの記憶が僕の中に鮮明に残っていて。だからこのお店に合う暖房機ってなんだろうと考えたときに最初に思い浮かんだのがトヨトミさんのストーブだった」

 KS-67Hは、初代モデルKS-105形という今から50年以上前に発売していたストーブを原点に現在まで少しずつ進化してきたストーブだ。特に現在発売しているブラックカラーはアウトドアから日常使いまで様々なユーザーからの高い支持を集めている。大きな変革を遂げた高山額縁店のように、時代が変わってもまた新たなユーザーに親しまれ、常に人々の暮らしの近くに寄り添ってきた。

「ストーブを点火すると当時のことを思い出すんです。仕事が少なくなって暇で何もやることがない一日にストーブを囲んで朝から晩までTVを見て。そういう記憶ってずっと残っている」

 何気ない過去の記憶を呼び起こすもの。そういった点で額縁とストーブには似た部分があると高山さんは言う。

「額縁のこともたまに『懐かしい匂いがする』とおっしゃる方がいます。木の匂いだったり、独特な香りがするそうです。僕らは慣れてしまって気付きもしないですけど(笑)。石油ストーブもそうですよね。点火するとき、消火するときの匂いが郷愁をいざなう。その匂いが過去の記憶とリンクしているような気がします」

KS-105 当時のカタログから

育ててもらった納屋橋
すこしでも恩返しを

 これからの納屋橋について聞いてみた。この先、納屋橋はどんな街になっていくのだろう。

「町おこしをやろうとするとよく『賑わい』というワードが出てきます。多分、人をたくさん集めるとかそういうことだと思うんですけど。でもここに来る方はそういうものは求めていないんじゃないかと思うんです。僕は納屋橋が『時間を売る街』になればいいなと思っています。これはもともと納屋橋の町おこしのコンセプトになっていた言葉で」

 『時間を売る』というのは、時間が経つのを忘れるくらいゆったりできるという意味なのだそうだ。『コーヒーを一杯飲んでのんびりと過ごしていたら夕方になっていた』。納屋橋がそんな場所になったらいいと高山さんは思っている。

「僕が昔留学していたときに住んでいたボストンがちょうどそんな街だったんです。夕飯を終えた夫婦の方が『ちょっと川辺を散歩しようよ』って歩いて、知らない間にできていたお店にふらっと入って。そんな何気ない日常を少し贅沢に楽しめる、少しスノッブで、ちょっとだけキザな空間になっていけばいいなと思っています」

 最後に、高山額縁店の今後の目標を聞いてみた。

「今は道半ばで少しずつみんなで会社を盛り上げていっているところなんです。初めてここに来られた方が高山額縁店で過ごしていただいて、『すごく素敵だね』と納屋橋の魅力を発見してもらいたい。一日に何百人も来るようなお店ではないけど、来た方ひとりひとりにそんなふうに思ってもらうことで、育ててもらった納屋橋に少しでも恩返しのできるようなお店にしていきたいと思っています」


ご紹介したお店

【納屋橋 株式会社高山額縁店】
住所:〒450-0003 愛知県名古屋市中村区名駅南一丁目1-17
営業時間:平日 12:00-19:00
※納屋橋Komore展覧会開催期間中のみ 日曜、祝日は12:00~17:00まで営業
定休日:日曜、祝日
※展覧会開催期間は12時~17時にて営業。展覧会開催期間は毎週水曜日が定休日
(営業時間・定休日について詳しくは公式WEBサイト・公式SNSをご確認ください)
電話番号:052-541-7813
公式WEBサイト:https://nayabashi-gakubuchi.jp/
公式Instagram:https://www.instagram.com/takayamagakubuchi1947_nybs/

【納屋橋TWILO カブトビール名古屋支店】
営業時間:平日 17:00-24:00 土曜 12:00-24:00
定休日:日曜、月曜、祝日


ご紹介したストーブ

KS-67H ブラック
1台で最大24畳を暖める高火力のストーブ
https://www.toyotomi.jp/products/heating/convection/normal/ks-67h


※本記事に掲載の情報は2024年4月時点のものです。


photo / oshima
interview & text / gambe


その他おすすめのトヨトミーツ

Other Contents

Products

トヨトミの製品

Pick up

おすすめ情報

ONLINE STORE

私たちが誠意をもって直接お届けいたします

ストーブ

公式限定モデル

公式ECショップのみの
限定商品も多数取り揃え

パーツ販売

長くご利用いただいた
消耗部品のパーツ販売

Greige color

温もりと過ごす、わたしのひととき。

CLICK