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2025/1/10

技を極めた職人たちが分業制で作る“使われるため”の器/瀬戸本業窯

 瀬戸本業窯は愛知県瀬戸市にある江戸後期から続く歴史ある瀬戸焼の窯元である。職人の手仕事によって作られる陶器。その作業は分業制という形をとっており、一人がマルチタスクをこなすのではなく、日々の反復作業によって極めた技で唯一無二の高品質な陶器が作られている。ひとりひとりがその作業を極めた職人なのだ。

 今回、取材に対応いただいたのは、瀬戸本業窯八代・半次郎後継の水野雄介さん。取材の経緯は少し特殊だ。ある日突然、水野さんの飼い犬である「ぽ太郎」が行方不明に。SNSを通して各方面に捜索を呼びかけたものの見つからずに数日が経過。水野さんご家族が途方に暮れていたところ、たまたま瀬戸市在住のトヨトミ社員が通勤中に「ぽ太郎」を発見。その後のやりとりの中で、水野さんがトヨトミのストーブを工房で使っているということがわかり、取材の申し出をしたところ、快く承諾していただいた。

 今回は2022年にオープンした瀬戸民藝館で、瀬戸本業窯の歴史と『民藝』との関わり、そして現在、これから目指す姿などを伺った。

“民藝運動”との出会い

「焼き物に必要な要素は、窯をつくるために丘陵地帯であること。粘土と窯を焚くための木々、そして人と水です。この5つの要素があれば焼き物が作れます。そのため昔の作り手の人々は、これらが揃うもっとも適した場所はどこかということを模索して移動していました。そこで辿り着いたのが現在の瀬戸や常滑のエリアです」

 水野さんはそう話す。釉薬を施した陶器は瀬戸で初めて作られたのだという。瀬戸の焼き物は大きく分けて2種類ある。瀬戸にもともと存在した『本業』と呼ばれる陶器の焼き物と『新製』と呼ばれる磁器の焼き物だ。あるときから本業を仕事とする窯元は大量生産向きである新製の波に飲み込まれ、多くの窯元が廃業していった。そんな中でも変わらず手仕事で陶器を作り続けた瀬戸本業窯。そんな『本業』という言葉はいつしか瀬戸本業窯が背負っていくことになっていった。

「ここ本業窯では約250年に渡って、実用陶器を作り続けています。かつては13連房だった登り窯は戦後に解体して4連房になり、薪で焚いていた窯は資材の減少などでガス窯に転向しています。大きくても小さくても、ものづくりを続けていくということが何より大切なことだと僕たちは考えています」

 時代が移り変わり、焼き物が生活の必需品ではなくなっていく中、それでも瀬戸本業窯は変わらないものづくりを続けてきた。その支えになったのはある言葉との出会いだった。

「祖父はもうやめようと思っていた時期があったようです。戦後に一時的な特需はありましたが、それが落ち着いた1950年代後半にはもう大型の焼き物は売れない時代になっていました」

 そんなとき、水野さんの祖父は、柳宗悦(やなぎむねよし)が中心となって提唱した『民藝(みんげい)』に出会う。民藝は美の概念で、工芸と言えば華美な装飾を施した観賞用の作品が主流という時代に、名もなき職人の手から生まれた素朴な生活道具を『民衆的工芸』とし、そこには美術品に負けない生活の中の美しさがあると評価した。民藝運動は大量生産の時代にあって失われゆく日本各地の手仕事の文化への再評価に繋がった。

「その柳さんが亡くなる三年前に瀬戸の登り窯のことを知っていただきました。柳さんが我々のものづくりを賞賛してくださったことが励みになって、祖父は、もう一度日常の窯を再興しようと決意したそうです。そして一般の方が使われている本業窯でつくった焼き物の蒐集活動を行いました。『古い』と言われても作り続けたこと、そしてそうした価値を伝えようと活動をしてきたことで現在の本業窯があると思っています」

 2022年に水野さんが尽力してオープンした瀬戸民藝館。ここでは瀬戸の歴史や焼き物の歴史、そして民藝と本業窯の関わりなどを、実際の焼き物の器はもちろん、写真や動画、そしてイラストを通してわかりやすく伝える空間になっている。

「焼き物は現代では生活の必需品とはいえません。なので、この先も焼き物が在り続けるためにはその価値を再定義することが重要と考えています。ただシンプルに“ものを見せる”だけではなく、瀬戸の歴史や背景なども含めて、その歴史的な価値を同軸で伝えていかないといけない。そのために瀬戸民藝館をオープンしました」

 瀬戸民藝館が開館する前は、作業中の工房に多くの観光客を受け入れてその歴史を説明していたのだという。

「当時は仕事をしながらそういったお客様の対応をしていたんですね。そうした状況の整理、そして祖父が出会った民芸運動なども含めた歴史の整理という意味でも、ここをオープンしたことでだいぶ肩の荷が下りたような気がします」

当たり前に存在する
ということが難しい

 瀬戸本業窯の仕事は分業制という形をとっている。一人一人の職人が同じ工程の仕事を反復し、その精度とスピードを高めていく。そうした熟練の技術によって作られる焼き物にはそこにしかない美しさと静かに宿る生命力がある。

「同じことを続けて同じものを作る。実はこれがとても難しいことなんですね。長い年月を経て、そういったものが現在も当たり前のように存在するということが実は凄いこと。そこには歴史と覚悟と信念があると僕は思っています」

 モノがあふれて飽和した現代にあって、瀬戸本業窯のスタイルは多くの人々にかえって新鮮なものとして映っている。

「芸術を学ぶ学生の方は『他の人と違うことをしろ』と教育されることが多いと思います。でもその考え方だけでは職人は生まれないんですね。分業制という仕事には成し遂げた後にみんなで共有できる喜びがあります。そういう仕事や生き方は減ってきています。でも、だからこそ、その価値を知っている自分たちはそこで踏ん張っていきたいんですね」

ダブルクリーンのRC-W36タイプ

 工房では広さや用途に応じて様々な種類のトヨトミのストーブが使われていた。ダブルクリーンタイプ、キャリングハンドルタイプ、高火力のKSタイプ。そこには瀬戸本業窯と共に年月を重ねてきた歴史が感じられた。

キャリングハンドルのRS-H29タイプ

「僕たちは空調を無闇に使うことができないんです。粘土の乾燥が進みすぎてしまうから。そういった意味で石油ストーブは加湿をしながら暖房ができる最適な暖房機なんです」

高火力のKS-67タイプ

 最初、工房の中にあるのに気づかなかったほど、トヨトミの石油ストーブはとても自然にその空間に存在していた。

「ほんとにすごく単純でシンプルなものなんですよね。僕自身、何度か芯交換も行っていますが、ちょっとやそっとでは壊れない。おそらく焼き物と同じようにストーブも作り方や形は基本的に変わっていないと思います。同じことを続けて、現代でも価値を持ち続けている。それが素晴らしいことだと思います」

食器棚の
一番取り出しやすい場所に
置いてもらいたい

 瀬戸本業窯では歴史を大切にしてものづくりを続けながら、新たなチャレンジも並行して行っている。代表的なものは日清食品とのコラボで作ったカップヌードルを調理するための専用の縄文土器だ。新しいユーザーへの訴求という点で大きな効果があったのだという。

「賛否両論はありましたが、非常に大きな反響をいただきました。一番大きかったのはYoutuberのヒカキンさんに取り上げていただいたこと。娘がたまたま動画を見たんですが、僕がその土器を作っているのを見ていたので。『あれパパが作ったやつ?』と聞かれて。そのときは誇らしかったですね(笑)」

 最後に今後の目標について聞いてみた。

「まずはやはりこの先も人々に使われる器を作り続けたいと思っています。僕の理想は本業窯の器を、食器棚の最前列の最上段に、いつも使っていただくような場所に置いてもらうこと。そして瀬戸の焼き物の価値を再定義してこれからも広く伝えていきたい。歴史を語って、多くの人々に知っていただくことも僕たちの大切な仕事だと考えています」

 そして水野さんにはもう一つ夢があるのだという。

「登り窯の再興ですね。1979年を最後に資材などの問題からもう使われなくなった登り窯ですが、やはり火を見て焚くというのが僕たちの焼き物の原点です。いつかその夢を叶えられたらと思います」


ご紹介した場所

【瀬戸本業窯】
住所:〒489-0847 愛知県瀬戸市東町1-6
電話番号:0561-84-7123
公式WEBサイト:https://www.seto-hongyo.jp/
公式instagram:https://www.instagram.com/setohongyo_hanjiro8th/

【瀬戸・ものづくりと暮らしのミュージアム 瀬戸民藝館】
住所:〒489-0841 愛知県瀬戸市東洞町17
営業時間:10時〜16時30分 (16時最終受付)
定休日:月曜〜水曜(祝日は営業)
(営業時間・定休日について詳しくは公式WEBサイト・公式SNSをご確認ください)
公式WEBサイト:https://www.setomingeikan-museum.jp/


ご紹介したストーブ

RC-W36タイプ
消臭効果の高いダブルクリーンストーブ
https://www.toyotomi.jp/products/heating/reflective-oil-heater/double-clean/rc-w3624


RS-H29タイプ
持ち運びのしやすいキャリングハンドルタイプ
https://www.toyotomi.jp/products/heating/reflective-oil-heater/double-clean/rc-w3624



※本記事に掲載の情報は2024年12月時点のものです。


photo / gambe & enomoto
interview / enomoto
text / gambe


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